外国人従業員との団体交渉

外国人従業員との間で労務紛争になった場合、当該外国人が労働組合に加入し、当該組合が企業に対して団体交渉を求めてくる場合があります。
この点、企業経営者の中には「当社には労働組合などないから、労働組合に駆け込まれるという事態が生じることはない」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、昨今は企業毎に組織される企業別組合ではなく(多くの場合、労働組合というとこの企業別組合がイメージされる場合が多いです)、企業横断的に組織され、一人からでも加盟することができる一般合同労組(ユニオン)の活動が活発になってきています。

ユニオンの場合、一人でも従業員が加入すれば、ユニオンは企業との間で団体交渉を求めてきます。ユニオンから団体交渉の申入れを受けた場合、労働組合法上、企業としては、どこの誰かもわからない初めて存在を聞くようなユニオンであっても団体交渉に応じる義務を負います。
どこの誰だかわからない団体だからといって団体交渉を拒否すると、団体交渉拒否として不当労働行為という違法行為となります。

そのため、企業としては、自社の従業員がユニオンに加入して団体交渉を申し入れてきた場合には、誠実に団体交渉に応じなければなりません。

この点、昨今は外国人を積極的に受け入れるユニオン、外国人専業を謳うユニオンも出現しており、SNS等を用いて外国人に対して効果的に加入勧誘を行っています。そのため、自社で雇用した外国人従業員がユニオンに加入して団体交渉を求めてくるのは何ら珍しい事態ではありません。

今後、企業としては、ある日突然外国人従業員が加入したユニオンから団体交渉の申入れを受ける事態が増加することが見込まれます。

団体交渉に関しては、そもそも団体交渉をどこで開催するか、会社側の出席者は誰で、何名とするか、事前にユニオンから要求された資料についてはどこまで準備をするのか等々、対応にあたっての検討事項が多岐にわたります。

殊に、企業に対して親和的な態度をとる企業別組合と異なり、ユニオンは団体交渉の場において企業に対して攻撃的な態度をとることが多く、団体交渉にあたった企業担当者に対して罵声を浴びせたり、恫喝することも頻繁にあります。
また、思うように団体交渉が進まない場合、ユニオンは企業に押しかけてシュプレヒコールをしたり、団体交渉の様子や企業に押しかけた様子を動画投稿サイトにアップする等、種々の方法で企業に対して圧力をかけてきます(動画投稿サイトを確認すると、ユニオンがアップした多くの動画を確認することができます。そこには、対応にあたった企業担当者が(おそらくは本人の同意なく)写し出され、否定的なテロップと共に紹介されています)。

このように、ユニオンが企業に対して嫌がらせのような行為に出る背景には、同種の従業員らに対する宣伝として街宣活動等の様子を共有するという側面もあると思われます。
もっとも、それに加えて、企業別組合と異なってユニオンは組織力を背景としてストライキ等を用いることにより企業に圧力をかけ要求を実現することができないため、ユニオンとしては他の過剰な手段によって企業に圧力をかけ、自分たちの要求を貫徹しようとすることに主たる理由があります。

この点、企業側としては、これらのユニオンが行う各種行為について、違法行為であるとして法的責任を追求したいところではあります。
しかし、労働組合法には、労働組合が組合活動として行う行為について、民事免責・刑事免責(その名の通り、民事・刑事的に法的責任を負わないという意味)を規定しているために、ユニオンに対して法的責任を追及できる場合は多くありません。

このように、企業としては、日常のビジネスシーンでは考えられないような圧力をかけられながらの団体交渉を強いられ、場合によっては本来応じるべきではない不当な要求に屈する事態に陥る場合も少なくありません。

以上の通り、従業員がユニオンに加入した場合には企業としては大きな負担を感じるところです。

さらに、ユニオンに加入したのが外国人従業員である場合、当該外国人が自らの母国語での団体交渉を求めてくる場合が考えられます。

労使関係が良好なときは、何とか日本語を用いて就業して良好な関係を維持するべく努力していた外国人従業員であっても、企業と敵対関係に陥り、自らの権利主張をする団体交渉の場においては、遠慮なく自らの母国語での団体交渉を求めてくることは珍しくありません。

このような場合、企業としては日本における団体交渉なのであるから、日本語以外での交渉には一切応じないとして、組合側で通訳を手配するべきであると主張したいところです。

しかし、この点が争われた東京学芸大学不当労働行為審査事件(都労委平成27年不第17号)では、中学校の外国人教師が英語での交渉を求めた一方、学校側は日本語での交渉と組合による通訳の手配に固執したため、議論にならず交渉が打ち切りになりました。

この事件では、日常的に職場において英語で会話がされていたという特殊事情があったものの、労働委員会においては使用者側に対し「日本語による交渉並びに同組合らによる通訳者の手配及び同行という条件に固執することなく、誠実な団体交渉に応じなければならない。」という判断がなされています。このように、外国人がユニオンに加入して暖帯交渉を求めてきた際、場合によっては企業側において外国人従業員の言語に対応する等して、実質的な議論ができるように配慮することが求められる場合があるということです。

以上の通り、企業におけるユニオン対応には困難を伴うことが多く、外国人従業員の場合にはその傾向はより顕著になります。
企業としては、突如ユニオンから団体交渉を求められた場合には、早急に専門家に相談の上、万全の態勢で対応するべきことになります。

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