外国人と解雇トラブル

「従業員を解雇したいのだけど、1カ月前に予告すればいいんだよね」

多くの経営者が陥っている勘違いです。
確かに、労働基準法は、従業員を解雇する使用者に対し、解雇予告手当として1カ月前の予告又はそれに相当する手当の支払いをすることを求めています(解雇予告)。

しかし、解雇予告は解雇をする際に法律上求められる手続の一つではありますが、解雇予告をすれば解雇が有効になるということではありません。すなわち、解雇予告は解雇の必要条件ではあるものの、十分条件ではないということです。

従業員を解雇し従業員から解雇が無効であるとして訴訟を起こされた場合、裁判手続において主として問題となるのは、
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
と規定する労働契約法第16条です。

そして、終身雇用制を柱とする長期雇用慣行を背景として、我が国の裁判所においては、労働契約法が規定する解雇の有効性について厳格な判断がなされる傾向にあります。

「このくらいの問題を起こしたのだから、解雇は認められるだろう」という経営者の意識と裁判所の判断基準のずれから、多くの解雇紛争で解雇無効の判断がなされています。

裁判所において解雇無効の判断がなされた場合、解雇した従業員が会社に戻ってくるというだけの問題にとどまりません。解雇を言い渡してから解雇が無効であると判断されるまでの期間の賃金相当額の支払いを命じられるのみならず(いわゆるバックペイ)、無効な解雇をしたということで慰謝料の支払いまで求められるのです。更に、当該従業員が復職することなく合意で退職するという解決になれば、更に慰謝料が増額することも少なくありません。

すなわち、違法・無効な解雇をしてしまうということは、企業にとって多大な金銭リスクとなり得るのです。

そのため、安易に解雇をすることは避けるべきであり、解雇の可否は専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めるべきということになります。

そして、当該従業員が外国人である場合、日本人従業員の場合にも増して多くの注意点があります。

例えば、外国人従業員に対する解雇が、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」と規定する労働基準法第3条に違反する差別的な解雇に該当しないかという点に注意が必要です。
すなわち、外国人であることに着目した解雇が、国籍や信条を理由とした解雇として無効とされるリスクがあるということです。

また、外国人従業員のコミュニケーション能力の不足を理由として解雇しようとする場合についても、それが日本語能力の不足に起因するものであるとすれば、企業として採用時から日本語能力の不十分さは認識したうえで採用したものであるとして解雇が無効とされるリスクが高いです。

なお、今般の入管法改正により導入された在留資格である特定技能での外国人雇用を検討している企業においては、特に解雇について注意が必要です。
すなわち、特定技能の在留資格での外国人受け入れが認められる企業としての適格要件として、特定技能雇用契約の締結前1年以内又はその締結日以後の期間、受け入れ企業において解雇を含めた従業員(日本人・外国人問わず)の意思に反した離職がないことが規定されています。そのため、解雇の問題は当該従業員だけの問題にとどまらず、企業全体の人材戦略全体の問題として影響してくる可能性があるのです。

なお、上記適格要件に関し、「自己の責めに帰すべき重大な理由により解雇された者」については除外されていますので、この点でも解雇の有効性についての判断能力を有することは外国人雇用を検討する企業において必須の前提知識であるといえます。

以上の通り、人材戦略として外国人従業員の活用を検討している企業にとって、解雇法制に関する法的理解は必須の前提知識になるといえます。

外国人従業員の雇用においては、日本人従業員の場合には生じない多くの問題が発生することが容易に想定されますが、企業経営者におかれては、外国人従業員に関して問題が生じた場合であっても、安易に解雇に踏み切ることなく必ず専門家にアドバイスを求めるべきであるといえます。

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