外国人従業員と就業規則

労働基準法上、常時10名以上の従業員を使用する使用者については、就業規則の作成が義務付けられています。そして、従業員に対して就業規則の周知がなされていることを前提として、就業規則は従業員との間の労働契約の内容となり(労働契約法第7条)、個別の労働契約において、就業規則の基準に達しない労働条件を定める部分は無効とされます(労働契約法第12条)。その意味で、就業規則は従業員の最低限の労働条件を規定する効力があるといえます。
他方、個々の従業員との間で、労働契約によって就業規則よりも有利な労働条件を合意することは可能です。

この点、外国人労働者との関係では、就業規則の取り扱いについて日本人従業員とは異なる配慮が必要となります。

まず、就業規則が労働契約の内容となる要件として、就業規則の周知が求められているところ、労働基準法における周知の方法として、厚生労働省令では作業場への掲示や労働者への交付、記録媒体の設置が想定されています。

もっとも、就業規則が従業員との間の労働条件となるための労働契約法上の「周知」とは、従業員が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくという、いわゆる実質的周知をいうとされています。
ここで問題となるのは、外国人従業員との関係で、就業規則の内容が日本語表記のみであった場合に、就業規則が労働契約の内容となるための「周知」といえるかという点です。

この点、日本で就業する外国人の中には、会話をするにも必ずしも日本語能力が十分ではない外国人がおり、日本語を十分に読むことができない外国人はむしろ多数といえます。
そのような外国人向けに、彼らが読むことのできない日本語で書かれた就業規則を設置していることで、周知したといえるのかという点が問題となるのです。

確かに、法令上、就業規則を従業員の使用言語に応じて作成しなおす義務は規定されておりませんので、雇用した外国人従業員の使用言語での就業規則を準備しなかったからといって、直ちに法令違反ということはありません。

もっとも、厚生労働省が発表している外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針では、労働条件の明示に関し「事業主は、外国人労働者との労働契約の締結に際し、賃金、労働時間等主要な労働条件について、当該外国人労働者が理解できるようその内容を明らかにした書面を交付すること」を求めています(第四の二第2項イ)。

当該指針の考え方を敷衍すれば、外国人従業員に対する就業規則の「周知」としては、少なくとも当該外国人が理解できる言語による就業規則の実質的周知がなされていなければ、当該外国人に対する就業規則の適用、ひいては就業規則に従った労働条件の適用を主張できないと考えるのが自然です。
この点、裁判においても、日本語の就業規則が外国人従業員に適用されるものとして漫然と運用していた場合、外国人従業員に対する適用を否定されるリスクがあります。

そして、外国人従業員の慣習・文化によっては、自らが署名・作成に応じたわけではない就業規則が、自らの労働条件を拘束するという制度が納得できないという場合は往々にしてあります。

そのため、今後外国人雇用が増えていくに従い、就業規則の適用に関する紛争は増加することが予想されます。

労務関係紛争(労働審判、訴訟等)になった場合、就業規則の内容はほとんどの場合で証拠として提出され、その条項と当該事案への適用が問題になり、日本人従業員の労務管理という観点でも、就業規則は極めて重要です。
ところが、就業規則を企業実態に沿って精査することなく他社の就業規則を漫然と転用したり、社会保険労務士が提供する雛形を安易に用いている企業が少なくありません。

外国人雇用を検討するこの機会に、今後の労務管理の基本として、就業規則の内容を企業実態に合わせて作成・変更されることをお勧めします。

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